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辻堂 魁 遠雷 風の市兵衛


風の市兵衛シリーズ第十一弾です。

元京都町奉行・垣谷貢の息子が誘拐された。市兵衛は、京時代からの仲間でもある矢藤太の頼みで、誘拐された幼子の探索を引き受けることになる。しかし、誘拐されたその幼子こそは京での市兵衛の初恋の人であるお吹の子でもあった。

やっと、と言っていいものか、まだ描かれていない市兵衛の過去での恋模様の一端が垣間見える物語でした。そして単にそのことのみならず、今回の物語での市兵衛の雇い主である元京都町奉行の垣谷貢と矢籐太との関係性や、お吹の父親と矢籐太と市兵衛との人間模様など、これまで記されてきた市兵衛の来歴に、京都時代での市兵衛の暮らしの一端が若干ですが加わっています。

これまでの物語でもそうだったように、このシリーズでは、市兵衛が仕えることになる雇い主と、その雇い主に害をなす敵役との関係性が、他の痛快小説とそれと比べても実に丁寧に描写してあります。だからこそ人気シリーズにもなっているのでしょうが、その状況設定についての説明のやり方にしても、説明的でないのです。

野口卓の『軍鶏侍シリーズ』でも思ったのですが、風景描写の美しさなどで構築されつつある文章の中に、説明のための説明文が入り込んでくるたびに物語の世界から読み手の現実に引き戻されてしまい、読み手のテンポが崩されてしまいます。

その点この物語では登場人物の会話なり、その場の舞台背景の描写なりの物語の流れの中にうまく織り込んでありますから、そのことは小説の読みやすさ、つまりは調子の良さに繋がってくると思われます。

また本書では、「遠雷」というタイトルにも使われている言葉が物語の流れの中で何箇所かで使われています。それはまるで「遠雷」という言葉に乗せてこの物語での遠い過去の日々を示しているようで、その点でも作者の上手さを感じさせるものでした。

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