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原田 マハ 楽園のカンヴァス


作者の筆力をも見せつけられると同時に、作者の持つ感性の細やかさを思い知らされた、読み応えのある長編ミステリー(?)でした。

大原美術館の監視員をしていた早川織絵は、ある日突然に館長室に呼び出され、ニューヨーク近代美術館(MoMA)所蔵の、アンリ・ルソー作「夢」を借り出す交渉をするように言われる。MoMAのチーフキュレーターであるティム・ブラウンが交渉の窓口に織絵を指名してきたらしい。織絵は十六年前のティムとの邂逅を思い出していた。それは、伝説的なコレクター、コンラート・バトラーからの、ルソーの作品の調査依頼に応じてチューリッヒに赴いた時のことだった。

前回読んだこの作者の作品は、同じく美術館のキュレーターを中心に据えた『暗幕のゲルニカ』という直木賞の候補作にもなった2016年発表の作品でした。本書はそれ以前の2012年に発表されていて、同じく絵画をテーマにしていますが、今回はアンリ・ルソーです。

彼の作品は、私が読んだ文庫版の表紙の装丁にも使われているので、すぐにわかると思います。私にとってのアンリ・ルソーは、中学時代(?)の担当の美術教師が半分笑いながら、「面白い」作家だという意味のことを言っていたのが唯一の想い出でしょう。

本書は2000年の今から、1983年の織絵とティムの物語へと時代は移り、そして二人はチューリッヒにおいて、20世紀初頭に生きたルソーについて書かれた文章を読み、コンラート・バトラーの所有するある絵についての真贋をを見分けることになるのです。

本書の魅力は第一義に絵画についての作者の表現力です。作者の表現は、「絵」という、二次元に多彩な色と構図で表現されている絵画を言語で表すことの難しさを軽々と越えられているように思えます。

絵画についての表現力は、対象となる画家について緻密に調査したうえで書かれたであろう事実についての描写についても生かされています。本書で言うと、織絵とティムが読んでいるルソーやピカソのその当時の描写や、本書中にちりばめられている数多くの絵画についての説明もそうでしょう。しかし、巻末に示されている資料の数は作者の努力の跡を示していると思われます。

この感性と表現力を持っている人だからこそ、『カフーを待ちわびて』のような美しさを持った恋愛小説も書くことができるのでしょう。

この点、二次元の絵画についての表現力と、物語の時代背景などの描写力とは一致するものなのか、疑問はあります。絵画という芸術に対する感性という異質なものが必要な気がしますが、よく分かりません。

本書のもう一つの魅力は、ミステリーとしての面白さです。特に本書は最後の最後に二重三重に仕掛けられていた仕掛けが次々と明かされますが、その意外性に驚かされました。

日曜画家として「税管理ルソー」との蔑称にも似た響きを持つ呼ばれ方をすることもあった、アンリ・ルソーの「夢」という一枚の絵から、これだけの物語を紡ぎだす原田マハという作家の魅力をもっともっと知りたくなりました。

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