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朝井 まかて 洛陽


昨年の秋、NHKのドキュメンタリー番組で明治神宮の特集番組がありました。神宮の杜の成り立ちから丁寧に解説していたのですが、百年の未来を見越した明治神宮の杜の設計には感動すら覚えたものです。

明治天皇崩御直後、東京から巻き起こった神宮造営の巨大なうねり。日本人は何を思い、かくも壮大な事業に挑んだのか?直木賞作家が、明治神宮創建に迫る書下ろし入魂作! (「BOOK」データベースより)

そして今年、朝井まかての未読作品を調べていると「神宮造営」という文字が飛び込んできました。あの朝井まかてが明治神宮造営という一大事業をを書いているというのですからすぐに読んだのです。

結論から言うと、私が思ってたものとは異なる内容の物語でした。NHKのドキュメンタリーを見たこともあって、明治神宮や神宮外苑の成り立ちをダイナミックに描き出している作品だと勝手に思い込んでいたのです。

実際読んでみると本書は、明治という時代についての作者の想いを一人の青年に託して表した作品でした。しかしながら、私の思い込みは外れたものの、作品としてはそれなりの面白さを持った作品でした。

主人公は東都タイムズという編集長以下三人の記者しかいない弱小新聞社の記者の一人である瀬尾亮一という記者です。明治天皇崩御に際し、瀬尾は二重橋前でひれ伏す大衆を見て「天皇とは、誰なのだろう。」という疑念を抱きます。この疑念が本書が私の思惑とは異なる世界へと導かれていくきっかけでした。

明治天皇の御陵は京都の伏見桃山に作られることが決まり、代わりに東京には明治天皇と昭憲皇太后を祭神とする神社を作ろうという話が起きます。

当初、神宮の荘厳さには針葉樹が必要だが、東京の代々木、青山付近は針葉樹が育つ環境には無く、神宮造営には不向きだという反対論が起きます。しかし、結局、現在の地に神宮を造営するととになり、反対論者ではありましたが、帝国大学農科大学講師の本郷高徳らは「明治を生きた人間として」「己が為すべきことを全うするだけ」だとして造営作業にまい進するのです。

本書は、そうした明治神宮造営事業を記事にしようとする瀬尾亮一や、同僚の記者である伊東響子の姿を追いかけています。そして、伊東の神宮造営に対する熱意とは逆に、瀬尾は明治という時代を生きた明治天皇個人の人間像へとその関心は移っていくのです。

十六歳で即位し、十七歳にして住み慣れた京都を離れ、まだ維新後の整理もできていない東京という町へ移られた若き天皇の心の内は如何ばかりだったのだろうかと思いを致す瀬尾でした。それは、天皇を通してみた明治という時代への作者の思いでもあったのではないでしょうか。

その後、瀬尾は「正史」のない明治天皇について調べていくのですが、それはつまりは作者自身の持つ明治という時代についての認識を、自分の中で再構成しようとする作業でもあるようです。

このところ、朝井まかてという作家が非常に面白い、読み応えの作品を書かれています。今私が一番好きな青山文平と作風は異なるものの、迫力では劣らない作品を書かれているようで楽しみです。

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