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中山 七里 おやすみラフマニノフ


「このミステリーがすごい!」大賞大賞受賞作の『さよならドビュッシー』に続く、ピアニストの岬洋介を探偵役とする岬洋介シリーズの第二弾です。

学費の支払いもままならない状況に陥っている愛知音大の学生である城戸晶は、学長の柘植彰良との共演と後期学費の免除という特典のある定期演奏会のメンバーに選抜されるべく練習に励み、見事その座を射止める。ところが、時価二億円もするストラディバリウス作のチェロが、密室状態だった保管室から盗み出され、更には柘植彰良の愛用のピアノが破壊されたりと事件が連続して起きるのだった。

前作の『さよならドビュッシー』の時と同様に、本書でも音楽の描写が素晴らしいものがあります。前作はピアノがテーマでしたが、今回の主人公城戸晶の演奏する楽器はバイオリンであり、ラフマニノフのピアノ協奏曲第二番がメインの楽曲として取り上げられています。

本書の中ほどで愛知県を台風が襲い、堤防の決壊の恐れがあるなか避難所に避難している市民の状態が不穏な状況に陥った場面で、その場にいた岬洋介と主人公の城戸晶とが演奏する場面があります。

嵐の中一触即発の住民の中で「戦争とか天災とか、自分の生活や命が風前の灯だって時に人は音楽なんて必要とはしません。」という晶に岬はこう言い切るのです。

「音楽もまた人の心に巣食う怯懦や非情を滅ぼすためにある。確かにたかが指先一本ですべての人に安らぎを与えようなんて傲慢以外の何物でもない。でも、たった一人でも音楽を必要とする人がいるのなら、そして自分に奏でる才能があるのなら奏でるべきだと僕は思う。」

このあとに二人はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を奏でるのですが、思わずネットでこの曲を探し、バックで流してしまいました。

この場面はお定まりの結末を迎えますが、物語の筋そのものはありきたりの流れではあっても、筆の力次第では心地よい感動をもたらす場面になるのだということを教えられました。一歩間違えば単なる感傷と片付けられそうな場面ではあるのですが見事なものです。

インタビュー記事を読むと、作者はクラシックに関しては興味も「なかったですし、僕は何の楽器もできません。」とのことです。全くの素人であり、だからこそ一般の人目線でクラシックを語れるのではないか、と言われています。一般人目線で、それもCDを「数回聴く程度」であの文章を書くのですから、驚きとしか言いようがありません。

前作もそうでしたが、本書はミステリー風味の音楽小説というべき物語であり、少なくとも本書に限っては謎解きもそれほどに感じるものではありませんでした。それよりも、学園内での人間ドラマ、ステレオタイプではありましたが様々な事情を抱えた学生たちのドラマのほうが面白さを感じました。

私個人の好みが謎解きに自体にはあまり関心がないこともあり、ミステリーの側面は物語の味付けの一要素にしかすぎません。本書で言えばやはり私の一番の関心は人間ドラマであり、音楽の描写なのです。

主人公を始めとする学生たちのドラマがあって、そのドラマの中にチェロの盗難や、ピアノの破壊という事件が絡み、誰が、何のためにという謎が物語の流れに厚みを持たせてくれます。そこに、音楽の描写という最大の魅力をもった文章が物語全体をより奥行きまでをも持たせてくれるのです。

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