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梶尾 真治 杏奈は春待岬に


いかにも梶尾真治らしい、変形のタイムトラベルものの恋愛小説でした。

主人公の少年白瀬健志は、十歳の春休みを利用して天草で銃砲店を営む祖父母のもとへ行き、春待岬という名の、春になると見事な桜が咲くという岬の先端にある洋館で見かけた、「あんな」と呼ばれている美しい少女に恋をしてしまう。それから健志は毎年春になると天草の祖父母のもとへ行くことが楽しみになり、ある年ついにその洋館に入ることになるのだった。

梶尾真治という作家は1971年にSFマガジン誌上で作家デビューしています。その時の作品が『美亜へ贈る真珠』という短編なのですが、この作品が異なる時間軸にいる恋人同士のロマンチシズム溢れる物語でした。本書はその作品の現代版とも言うべき物語となっています。

主人公の少年白瀬健志は天草の西北端にある春待岬の洋館で杏奈という少女と出会いますが、この少女は春先の数日間しか現れない、つまりはその数日間だけの存在だったのです。杏奈が不在の間は、彼女にとっては連続した日々であっても、健志少年にとっては一年が経過しているのです。

異なる時間軸にいる男女の物語というプロットはまさに『美亜へ贈る真珠』のそれです。『美亜へ贈る真珠』の場合は流れる時間の速度が異なりますが、本書の場合は共有できる時間が一年に数日しかないという設定です。

健志少年は純粋に恋心を抱き、彼の人生をただ杏奈のためにだけ生きようと決意し、実行します。彼の人生には勿論他の女性も現れるでしょうし、実際、彼の人生に大きくかかわってくる青井梓という女の子も現れるのです。

カジシンの小説では、純粋な少年は本当に純粋無垢であり、その意思の強さはまた無類です。他には目もくれず健志少年はひたすら杏奈だけを思い、そして杏奈を残して自分一人年老いていくことになります。

本書には他に重要な登場人物として杏奈の兄と、健志を春待ち岬の洋館に連れて行ってくれたカズヨシ兄ちゃんという存在がいます。共に、この物語全般にかかわってくるのですが、青井梓も含めて、すべては健志少年のためだけの存在でしかありません。

この物語は、結末が決して納得のいくものではなく、梶尾真治であればもう少し他の書き方、まとめ方もあったのではないかという印象はあります。でも、梶尾真治ひさびさの時間ものは若干肩すかし気味ではありましたが、やはり面白いエンターテインメント小説を書く作家さんだと思いました。

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