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有川 浩 塩の街


有川浩のデビュー作であり、自衛隊三部作の第一作でもある、SFともファンタジーともつかない長編です。

ある日突然空から巨大な白い隕石らしき物体が降ってきて、人間の塩化がはじまった。人間の塩化と隕石との因果関係も分からず、治療方法も不明のまま塩害と名付けられた人間の塩化は現在も進んでおり、関東の人口は三分の一にまでなってしまっていた。高校生の小笠原真奈は、暴漢に襲われていたところを秋庭高範という元自衛官に助けられ、彼の庇護のもとで生活していたが、猫、犬を拾ってきた末に拾ってきたのは人間だった。

隕石を原因として人間がその形のまま塩の彫刻と化してしまう、という設定は、怪獣の発する光線を浴びて人間が炭化するというB級映画に出てくる構造と何ら変わりのないものです。それでいて、単なる塩化という現象とすることで、派手なアクションはないままに、怪獣の恐怖は存在するのです。いい大人と少女との恋模様を静かに描き出すことができるうまい設定だと思います。

この作品がデビュー作だはとても信じられないくらいに、有川浩という作家の基本的な文章のリズムが既にできていると感じる作品でした。本書は、秋庭高範という元自衛官と真奈という少女との年齢差を越えた恋愛感情を軸に描かれている物語で、三部作の中では一番恋愛要素が強い作品でしょう。

反面、自衛隊三部作とは言っても、本書では自衛隊そのものの描写はそれほどはありません。秋葉元二尉という男とその友人である入江という基地司令を名乗る男は、このあと有川作品に出てくる男らの基本形のようでもあります。この二人を中心に「世界を救う」ために行動を起こすのですが、そのへんはあまり詳しい書き込みはありません。

なにせデビュー作です。人物の書込みの薄さや舞台設定の甘さなどは否定はできません。しかし、それを無視して楽しめる作品でもあります。でも、ライトノベル的な恋愛物語の甘さが苦手な人は敬遠した方が良いのかもしれません。とはいえ、気楽に軽い気持ちで読める作品なので、そう身構えることもないと思える作品です。

大人にもライトノベルが欲しいと思って作家になった(「あとがき」より)、という有川浩という作者ですが、その思いは十分にかなっていると思います。

文庫本(角川版)で444頁という本書ですが、本編は中ほど250頁ほどで終わり、あとは「塩の街、その後」として「-debriefing- 旅のはじまり」「-briefing- 世界が変わる前と後」「-debriefing- 浅き夢みし」「-debriefing- 旅の終わり」の四編の短編が収められています。

主に「塩の街」本編のその後について書かれている作品群です。これらの作品も併せて「塩の街」と言っていいのでしょう。

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