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三上 延 ビブリア古書堂の事件手帖


この作者は本が好きな方なのだろう、そう思わせてくれる、四編からなる連作短編集、ではあるのですが、一編の長編推理小説と言ってもよさそうな物語でした。

鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋「ビブリア古書堂」。そこの店主は古本屋のイメージに合わない若くきれいな女性だ。残念なのは、初対面の人間とは口もきけない人見知り。接客業を営む者として心配になる女性だった。だが、古書の知識は並大低ではない。人に対してと真逆に、本には人一倍の情熱を燃やす彼女のもとには、いわくつきの古書が持ち込まれることも、彼女は古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように解き明かしていく。これは“古書と秘密”の物語。 (「BOOK」データベースより)

本書は、主人公である五浦大輔という大学を卒業したての男と、北鎌倉にある「ビブリア古書堂」という古書店の主である篠川栞子とを中心に、栞子の妹の文香、そしてせどり屋の志田を始めとするビブリア古書堂の常連たちを巻き込んで繰り広げられる軽いミステリーです。

軽いミステリーとは書きましたが、読みやすいという程度の意味であって、ミステリーとして軽薄ということではありません。

ミステリー作品は論理を追いかけない読み方しかしない、というかできず、そこで展開される人間模様にこそ惹かれた読み方しかできない私です。その点、本書はユーモアを交えた文章も実にかろやかで読みやすく、登場人物たちの性格設定も良く練られていると感じました。

主人公の一人である五浦大輔は本は好きなのですが、「読む」ということができません。その理由には若干の疑問はあるものの、その設定が大輔と篠川栞子さんとの仲を取り持つのですから、まあ目くじらを立てるほどでもないでしょう。

それより、篠川栞子さんが美人であることや人見知りであることもさることながら、彼女の古書に関する知識の深さに驚かされます。それはとりもなおさず作者の知識の深さであり、エンターテインメント小説に限られる私の読書量など何ほどのものか、と思わせられる知識量です。

この読書量、知識があって初めて、本書の行間に漂う本に対する愛情がにじみ出てくるのだと思われます。

そして、その知識を前提として、各短編ごとに特定の書籍に関連した事件が起き、その事件に絡む謎を解いていくという構成になっています。各話で紹介される書籍は、私はまず読んだことのない作品ばかりです。第二話に出てくる小山清という人は初めて知りましたし、第三話のヴィノグラードフ・クジミンにしても同様です。第一話の漱石や第四話の太宰治という名前は知っていますが『漱石全集・新書版』も、『晩年』という作品も読んだことはありません。

本書の古書店という設定からしても本をが好きであること、大切にしていることはよく分かります。活字中毒ではあってもあまり本を大切にしているとは言い難い私でさえ、やはり本を足下にしたり、捨てたりは出来ないものです。

アスキーメディアワークスという出版社から出されているこの作品は、いわゆるライトノベルというジャンルに分類される作品でしょう。だからでしょうか、大輔の一人称で語られる本書の文章は、人物の心象を示す背景描写もなく、心裡を掘り下げることもありません。交わされる会話文も軽いのです。

でも、改行が多用され、テンポが良い分読みやすいのです。それでも、対象となっている本自体や内容にまで踏み込んでいるからなのか、物語が上っ面をなぞっているという印象はありません。それどころか、しっとりと落ち着いたたたずまいすら感じます。それこそ古書店の、古い本の匂いの漂う雰囲気というのは言いすぎでしょうか。

提示される謎はそう重いものではなく、大輔と栞子さんとの掛け合いも気持ち良く読むことができ、本書がベストセラーになるのもよく分かります。

本書を第一巻とするシリーズは全部で七巻になるそうです。気楽に読める作品として、今後も読んでみたいと思います。

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