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あさの あつこ 天を灼く


一人の未だ元服すら済んでいない少年の伊吹藤士郎と、正体のよく分からない剣士柘植左京とを主人公とする、あさのあつこの新しいシリーズです。

父は、天羽藩の不正に加担した責めを負い腹を切ることになったが、その前夜、伊吹藤士郎は牢内にいる筈の父から呼び出しを受ける。必死で駆けつけると、一振りの刀を形見として渡され、介錯をするように言われるのだった。父は何故に自刃しなければならなかったのか、父の汚名を晴らすことはできるのか。

あさのあつこの作品の一つに『燦』というシリーズがあります。文春文庫から書下ろしで刊行された全八巻の物語です。このシリーズの主人公は、田鶴藩主二男の圭寿に仕える田鶴藩筆頭家老の嫡男である吉倉伊月という少年で。加えて、伊月の双子の弟である燦が伊月を、そして圭寿を助け活躍する物語です。

本書は、一人は厳しい環境で育った剣の使い手であり、一人は育ちのいい少年剣士というコンビという点で、この「燦」というシリーズと同じような設定の物語になっています。そして同様に、いまだ頼りなさの残る籐士郎を殺人剣の使い手である左京が助け、江戸への旅、そしておそらくは江戸での籐士郎の生活を助ける物語になると思われます。

あさのあつこの物語は、登場人物の心象をしつこいほどに描写し、彼の行動の理屈を丁寧に説明するという特徴を感じます。

本書の一頁目にある「空は焼けている。それなのに、篠つく雨が降っていた。地を叩き、ざあざあと騒擾の如き音を立てる。」などという描写は他では目にしない描写です。漢字をあまり多用せずに読みやすい日本語を使うというのが、この頃の小説の一つの作法であるように思っていたのですが、あさのあつこという作家の場合、その逆を行っているようです。

そうした、いかにも日本的な心象描写のすぐあとに、主人公籐士郎の家族である姉美鶴や母茂登子、それに籐士郎の親友の風見慶吾や大鳥五馬らの快活で幸せそうな情景が描かれ、この物語は始まります。

このあと、姉や左京の出生にまつわる秘密や、藩の重鎮たいまでも絡む不正の実情などがたたみ掛けるように語られ、物語は一気に読み終えてしまいました。

この作家の『弥勒』シリーズほどではないにしろ、闇を内包する物語かと思っていましたが、どちらかというと籐士郎の成長ぶりが描かれていきそうな雰囲気も漂う開幕ぶりであり、この著者お得意の青春小説になるのかもしれません。

ちょっと主人公が若すぎるのではないかという心配はありましたが、元服前の十四歳の少年の行動とは思えない籐士郎の行いのせいもあってか、十四歳という年齢はそれほどに意識しないで読み進めることはできました。ただ、そのことを意識すると、若干出来すぎではないかという危惧はあります。

それでも、今後が期待できる新シリーズの始まりを思わせる第一巻目でした。

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