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柚月 裕子 合理的にあり得ない 上水流涼子の解明


この作家にしては珍しい、肩の凝らない気楽に読める短編のミステリー小説集でした。

主人公は弁護士資格を剥奪されたといういわくありげな過去を持つ上水流涼子という美人女性で、これまた正体が良く分からないIQ140 という頭脳を持つ貴山という男を助手として探偵事務所を経営しています。この女が貴山の力を借り、事務所に持ちこまれた事件を法律の埒外で解決していくという物語です。

第一話「確率的にあり得ない」
とある会社の二代目社長が、ボートレースの結果を全て当てた予知能力を持つという男と5000万円という契約料でコンサルタント契約を結ぼうとしていた。この社長の目を覚まして欲しいという依頼を受けた上水流涼子は一計を案じる。

何の前提知識もなく始まったこの物語は、上水流涼子とその助手である貴山という、この物語の中心となるであろう登場人物の紹介を兼ねた物語です。

とは言っても、彼らの背景については何も語られてはいません。ただ、上水流涼子という人物が弁護士資格を剥奪されたことがあること、助手の貴山が劇団員だった過去を持つ優秀な男であること、などが明かされているだけです。

それでもなお、この物語の展開は気楽に読める物語であることを予想させるものでした。

第二話「合理的にあり得ない」
間もなく還暦を迎える神崎恭一郎は、バブル期に土地取引で莫大な財産を築いていたが、仕事一途で家庭生活を顧みなかったためか、現在の家庭は決して順風とは言えないものだった。そんな折、妻の朱美が霊能力者と自称する女から高額な皿や壺を買わされているということに気付いた神埼は、その霊能力者に直接談判することにするのだった。

意外性のある物語展開、とまでは言えない作品でしょうか。神崎を罠にかけるために採った方法がユニークと言えばユニークで、法律家らしい視点とも言えるのでしょうが、謎解きとしては特別なものがあるわけではありません。

神埼の妻の心の奥の感情を引っ張り出した、という結果だけが残る、本書の中では普通の物語です。

第三話「戦術的にあり得ない」
関東幸甚一家総長の日野照治は、長野県の暴力団横山一家総長の財前満都との賭け将棋で、それまで均衡を保っていたのに三連敗を喫しているという。そのため、次に行われる一億円のかかった将棋で、手段は問わないので絶対に勝たせてくれというのだった。

この物語も、謎解きそのものに新鮮さや、目を見張る点などがあるわけではありません。ただ、貴山がアマチュア五段という将棋の実力の持ち主ということが判明したことが新しく分かったこと、というぐらいでしょうか。

第四話「心情的にあり得ない」
涼子が弁護士資格を剥奪された原因である、涼子のかつての顧問会社の社長から、家出をした孫娘の捜索依頼があった。依頼を受けることに反対する貴山を押し切り、その依頼を受ける涼子だった。

この物語はミステリー、謎解きという側面では何もありません。ただ、上水流涼子の過去、彼女が弁護士資格を失った理由、そして貴山という助手と知り合った事情が明らかにされます。

また、新宿署組織犯罪対策課の薬物銃器対策係の主任である丹波勝利という刑事が登場します。早く嫁に行き「子供を産め」と言い切るセクハラ男でもあるこのキャラクターは今回はそれほど活躍の場面はありませんが、今後活躍しそうだと思われます。

第五話「心理的にあり得ない」
父親が自殺したという娘が父親の無念を晴らしたいと、野球賭博で父親を騙した男への復讐を依頼してきた。

この物語では野球賭博が取り上げられています。野球賭博の仕組みが詳しく語られています。この物語もミステリーというよりも人間ドラマの面白さに目が行くものでした。



全体として、ミステリーとしての面白さに重点があるとは思えず、コンゲームとしての駆け引き、面白さのある物語でした。というよりも、主人公の上水流涼子と貴山という助手のキャラクターの面白さで引っ張っていく物語と言えるかもしれません。

いずれにしても、この作家の新しい側面を見せた小説です。続編が書かれることでしょうから、続けて読みたいと思います。

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