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深町 秋生 探偵は女手ひとつ


『果てしなき渇き』で第3回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した深町秋生の、椎名留美という女性を主人公とする、六編からなるハードボイルド連作短編小説集です。

椎名留美は娘とふたり暮らし、山形市で探偵をしている――とはいうものの、仕事のほとんどは便利屋の範疇だ。パチンコ店の並び代行、農家の手伝い、買い物難民と化した高齢者のおつかい、デリヘルの女の子の送迎などなど。シーズンを迎え、連日さくらんぼ農家の手伝いをする留美に、元の上司である警察署長から、さくらんぼ窃盗犯を突き止めて欲しいという、久し振りの探偵らしい依頼が入ったのだが……。(「光文社」公式サイトより)

何といっても本書の特徴は、秋田弁を話すシングルマザーが主人公だということでしょう。全編山形弁での会話が弾み、独特な雰囲気を醸し出しています。

東直己の『探偵・畝原シリーズ』を思い起こさせる、裏社会の闇に飲み込まれて悲惨な目にあっている一般人の救済という趣きを持つローカルなハードボイルドであり、山形弁の心地よいリズムが、描かれているテーマの重さを少しなりとも軽くしています。

椎名留美はかつては刑事であったのですが、現在は私立探偵として開業しています。しかしその実態は便利屋であり、パチンコ店の並び代行、デリヘルの娘の送迎などをしています。

第一話「紅い宝石」では、さくらんぼ農家の収穫の手伝いをしている留美ですが、さくらんぼ窃盗事件について走り回ることになります。その依頼者は留美のかつての上司で、現在は東根警察署の署長なのです。

第二話「昏い追跡」では、留美はスーパーの保安員をしています。今回は、万引き犯の実態を詳しく描写してあり、話は万引きで捕まえた少女の死に隠された謎に迫ることになります。

本シリーズの重要な登場人物の一人である畑中逸平という男も登場するのもこの話です。逸平は留美が現役警察官の頃よく手を焼かされた不良の大物だった男で、このシリーズでも留美のボディーガード兼暴力装置的立場にいます。

第三話「白い崩壊」では、奥州義誠会という暴力団の幹部である石上研から、さらわれたデリヘルを探して欲しいという依頼を受けることになります。女を、金を稼ぐ道具としか考えずまた扱いもしない男たちの世界に飛び込んでいく留美でした。

この石上も本シリーズでちょくちょく顔を出すことになる人物で、留美の裏社会へのつながりの大きな道筋にもなる男です。

第四話「青い育成」では、留美は雪おろしの仕事の依頼者である元クラブのママである一人の老婆の探偵としての依頼を受けることになります。自分の店子である初老の男の元に訪ねてくる女の素性を探るようにとの依頼であり、その先には意外な事情が隠されていました。

一人の老婆の、淡いロマンスを背景に極道社会への暗い道筋が照らし出される物語でした。

第五話「黒い夜会」では、逸平の浮気を疑った逸平の恋女房の麗の依頼で逸平を見張ることになる留美でした。逸平の行動にはホスト業で借金を負わされた友達を助けるという理由はあったのですが、ホスト社会の裏事情も隠されていたのです。

第六話「苦い制裁」では、ストーカー事件の実態が描かれます。一度ストーカー事件を処理した男から、新たなストーカーらしき事案の相談を受けます。しかし、その裏には隠された事実がひそんでいたのです。

本書ではまずは留美のキャラクター造形の上手さが光ります。留美の個人的な事情としては、一人娘がいるシングルマザーであること、過去には刑事であったが現在は探偵業を開業しているものの、実態は便利屋としての仕事の方が多いこと、くらいが判明している事実でしょうか。

そして、向こう見ずな性格でもあり、暴力団事務所であろうと必要であれば乗り込んでいくだけの度胸を持った女性でもあります。しかし一方で、そうした際にはほとんどの場面では逸平なり、警察との繋がりなどを利用した保険を掛けておくことも忘れない慎重さもあるのです。

この手の物語の決まりごとではあるのですが、警察と裏社会とのパイプは欠かせません。留美はその両者を上手く使いながら、事件を解決していくのです。

なかなかに小気味よく、私の感覚にピタリとはまる小説でした。続編が出るのを大いに期待したいと思います。

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