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柚月 裕子 慈雨


一人の退職警察官のお遍路の巡礼の姿を追った、社会派の長編推理小説です。

警察官を定年退職した神場智則は、妻の香代子とお遍路の旅に出た。42年の警察官人生を振り返る旅の途中で、神場は幼女殺害事件の発生を知り、動揺する。16年前、自らも捜査に加わり、犯人逮捕に至った事件に酷似していたのだ。神場の心に深い傷と悔恨を残した、あの事件に―。元警察官が真実を追う、慟哭のミステリー。 (「BOOK」データベースより)

定年退職を迎えた一人の刑事が、四国八十八か所巡りのお遍路の旅を長年連れ添ってきた妻と共に歩き始めます。歩き遍路の旅の途中で様々な人と出会い、これまでの自分の人生を振り返りながら歩き続けるのです。特に、遍路初日に舞い込んできた幼女誘拐殺人事件の知らせは神場元刑事の悔恨の事件を思い出させます。

「過去に過ちを犯し、大きな後悔を抱えてきた人間が、どう生き直すのか」を書きたかったという著者です。

捜査本部に詰めているかつての部下であり、神場の娘の恋人でもある緒方刑事を通して捜査情報を知る神場は、お遍路の旅の途中で思いついた考えを緒方に伝え、捜査を導くことになります。

柚月裕子という作家が一番書きたいであろう、重い問題提起を含んだ社会性の強いミステリーです。特に、還暦を数年前に迎えた私らの年代には実に重いテーマでした。

この著者の描く物語は、先日読んだなかりの『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』のような軽く読める作品もありますが、『最後の証人』から始まる「佐方貞人シリーズ」に見られるような社会的な強いメッセージを持った作品をその本領とされるようです。本書もまさにそうで、「生き直さなければならないと思う場面に遭遇したときに、どう向き合って決着をつけるか」を問うているのだと言います。

特に佐方貞人シリーズでは、佐方の生き方は「犯された罪はまっとうに裁かれなければならない」ということをそのままに生きているのですが、それは時に書生論としてうつります。実際にはそんなことが言える筈も、出来る筈もない、という現実論の前に、ある種理想論をそのままに主張するのです。

本書の神場もまさにそうで、最終的に下される彼の決意は、まずは自分の妻に更なる苦労を強いることになり、またかつての直属の上司であった鷲尾の生き方に大きな影響を与えてしまっています。ましてや、その後に想像される神場の行動は当時の県警の上層部は勿論、当時の同僚の生き方にまで大きな影響を及ぼさずにはいられない筈なのです。

それでもなお、神場元刑事は自らの生き方の決着をつけるために自分の信念に従って生きていくでしょう。それは現実の自分には出来ないであろう生き方を代わりに実現してくれるという意味で一種のカタルシスをもたらしてくれます。

還暦を過ぎた身としては、自分の人生に全く後悔が無いなどという人はまずいないでしょう。その後悔する事柄を正す機会があったとして、そのためには多くの人の生き方に迷惑をかけるのであれば多分自分の誤りを正す道を選択することはできません。

しかし、それをやってくれるのが小説であり、本書なのです。柚月裕子という作者はそうした青春論をそのままに主張できる作家さんだと思われ、だからこそ私の、そして多くの人の賛同を得ているのだと思います。

歩きお遍路の途中でいろいろな人と出会って種々の人生と触れ合い、そして自らの過去へと戻っていきます。そうした細かなエピソードのの一つ一つが心に染み入ってきます。

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