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あさの あつこ 花を呑む


「弥勒」シリーズの第七弾の長編小説です。

海辺大工町の油問屋東海屋五平が尋常ではない死にかたで死んだ。体には針の穴一つ無く、ただ深紅の牡丹がいくつも口に突っ込まれており、その場にいた女中は「恨みを晴らしてやった」と言う幽霊を見たと言うのだ。その翌日、五平の囲い者である女も佐賀町の仕舞屋の庭の牡丹の根元で、白い襦袢を血のりで真っ赤に染めて死んでいるのが見つかったのだった。

本書は信次郎の謎解きがメインとなった、まさに捕物帳と言うべき作品になっています。その本筋に添えて、伊佐治の息子嫁であるおけいの失踪騒ぎも加わっています。その上で、このシリーズの常である、登場人物それぞれの心象描写がこれでもかと言わんばかりに続くのです。

この心象描写がすこし鼻につきだした、とはこのシリーズの前の巻の『地に巣くう』で、ブログ「第二級活字中毒者の遊読記」の焼酎太郎さんの「なんだか鬱陶しくなってきました。」という感想に若干の賛意を示した私でしたが、本書ではまさに「鬱陶しい」という印象が強くなっています。

もう少しさらりと書いても良いんではないか、と思うのです。とはいえ、捕物帳としての面白さあって、やはりうまい書き手だと、あらためて思いました。

東海屋五平の死の謎を探る信次郎と伊佐治ですが、伊佐治の家では息子嫁のおけいが二度の流産により自分を責め、自分を見失ってしまい、家を飛び出してしまいます。一方、清之介のもとにも兄の家来である伊豆小平太が五百両という大金を借りに来るのですが、その借財の理由は兄の病だと言うのです。

それらの、本書の本筋とは違う脇筋の挿話と思われた話が、終盤一つの糸につながっていくのですが、その折の信次郎の謎解きは結構読み応えがありました。

作者の言葉によると、「結末をまったく考えずに書いている」と言われています。それにしては伏線がそれぞれにきちんと回収されており、とても無計画では書けないと思うのですが、そこをこなすのが作家という職業の人たちなのでしょうか。

冒頭の事件が起きた時、風邪で寝込んでいた信次郎であり、その信次郎に風邪をうつされ、その後の探索が後手に回ってしまった伊佐治です。でありながら、捜査の王道である聞き込みを丁寧にこなしながら、関係者の言葉から次第に事件の裏を解きほぐしていく信次郎の描写は、清之介とのいつものようなやりとりもありながら、伊佐治との掛け合いがなかなかに面白く読むことができました。

加えて、伊佐治の家庭の話、それに清之介の兄との確執の行方、そして本筋とは離れたところではありますが新たに登場したキャラクタ―の存在も気になるところです。作者自身はこのキャラをどうするかはまだ決めていないということですが、多分何らかの形で絡んでくることになるのだと思っています。

再度書きますが、過剰な心象描写を少し抑えてもらって、シリーズの更なる継続を願いたいところです。

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