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佐々木 譲 廃墟に乞う


休職中の刑事を主人公とする、ハードボイルド短編小説集で、第142回直木賞の受賞作品です。

「オージー好みの村」
かつての知り合いの聡美からの頼みで、札幌から約三時間のところにある倶知安町(ニセコひらふエリア)までやってきた。聡美の友人のオージー(オーストラリア人)であるアーサーが殺人の疑いをかけられているので助けて欲しいというのだ。
    「廃墟に乞う」
仙道のかつての上司である山岸克夫から、千葉の船橋でのデリヘル嬢が殺された事件について電話が入った。手口が、かつて仙道らが殺人罪に問えなかった古川幸男の犯行を思わせるものだった。仙道は、古川の生まれ故郷である今は廃墟となっている炭鉱町に行ってみることにした。
    「兄の想い」
弟のように可愛がっている男が殺人の現行犯逮捕されたとして山野敏也に呼ばれ、オホーツク海に面した沿岸漁業のための町にやってきた。町に着いたとたん、ヤクザが声をかけてきたが、仙道のことを警察官だと気付くとすぐに立ち去るのだった。
    「消えた娘」
白石署の田辺刑事から紹介されたと言って、中年の見知らぬ男が声をかけてきた。行方不明になっている娘を探して欲しいという。逃走して死んだ婦女暴行犯の部屋からその娘のハンドバッグが見つかったらしい。覚悟はしているが自分を嫌って家出をし、風俗にまで落ちていたらしい娘をそのままにはできないと言うのだった。
    「博労沢の殺人」
十七年前、仙道が苫小牧署の新米捜査員としてつめた捜査本部で迷宮入りしてしまった殺人事件の、事実上の被疑者として見ていた男が殺された記事を見つけた仙道は、日高地方中央部のその町までやって来た。
    「復帰する朝」
医師から命じられた三度目の転地療法も十日目になり、もう職場復帰出来ると感じていた。札幌まであと一時間というところで、中村由美子という、かつてとある事件で世話になった女性から殺人の疑いをかけられている妹を助けて欲しいと連絡が入った。

この作家の『制服捜査』という作品は、川久保篤というもと刑事の駐在所勤務を描いて保安官小説とでも言うべき作品でした。それに対し、本作品はまさにハードボイルド小説です。主人公は警察官でありますが、休職中という設定で警察官としての職務執行はできず、個人の経験のみで事件の裏を探り出します。

著者によると、矢作俊彦の小説にある「二村永爾シリーズ」にならって「プライベート・アイ(私立探偵)」小説を書こうと思ったそうで、あちらが刑事の非番の日に捜査をするのであれば、こちらは休職中ということにしようと思ったそうです。

本来、日本では私立探偵ものは書きにくいのだけれど、本書のような設定で私立探偵小説を書くこともできるのだよ、とも書いておられます。

本書は個人的な好みにも非常に合致した作品でした。物語の湿度が極力低めで、決して派手ではなく、読み終えてから余韻が残る作品というものはあまりありません。勿論、そこにユーモアや、饒舌さなどがあってもかまわないのですが、最終的に心のどこかにストンと落ち、しばらくはそこにとどまっている、そんな物語が好きなのです。

そもそもこの作者の警察小説はかなり面白いのです。北海道警察の不祥事をテーマに組織体個人を描いた『笑う警官』や、親子三代にわたる警察官の家族を描いた『警官の血』、保安官小説だという『制服捜査』、どれも一級の作品でした。

そうした作品群の中でも、本書はこの著者のベストと言える作品だと思うのです。このような小説を更に読みたいものです。

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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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