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畑野 智美 ふたつの星とタイムマシン


タイムマシンでは、行けない明日』と世界を共通にする、SFと言っていいのかな、と疑問符が付きそうな短編集です。

疑問符が付きそうな、というのは、本書が『タイムマシンでは、行けない明日』以上に科学的な描写は無いからであり、更には内容が実に「普通」であるからです。

本書の構成は

「過去ミライ」
 過去の自分に会い、ある忠告をしようとする女子学生の物語。
「熱いイシ」
 その石を持っていると、質問に対する答えが分かるという不思議な石の話。
「自由ジカン」
 望み通りに時間を操ることができる中学生の物語。
「瞬間イドウ」
 無意識に自分が思う場所へと瞬間移動するOLの物語。
「友達バッジ」
 これをつけていると誰とでも友達になれるというバッジの話。
「恋人ロボット」
 男子学生と恋人の美歩ちゃんと家庭用ロボットとの話。
「惚れグスリ」
 田中君と長谷川さんと惚れ薬の話。

となっています。

社会の全員が超能力者というわけではないけれど、超能力者であっても普通に暮らすことのできる社会。多分、今この私たちの世界とは異なる、パラレルワールドの出来事を描いた小説集です。

特に最終話の「惚れグスリ」は、『タイムマシンでは、行けない明日』に連なる話であり、共通する人物の名前が出てきます。共通する人物という点では第一話の「過去ミライ」もそうでした。

この第一話は仙台の大学の平沼教授の教室の話であり、そこにあるタイムマシンを使った学生の物語で、この物語をベースに、最終話の「惚れグスリ」の設定を膨らませた話が『タイムマシンでは、行けない明日』になった、と言って間違いではないと思われます。

どの物語も主人公の一人称で語られていますが、主人公の内面描写などはほとんど無く、実に淡々とした文章で綴られた物語となっています。

本書の惹句を読むと、一応SFというジャンルに括られているようですが、どうもSFというには単にタイムトラベルがテーマになっている話があるというだけで、物語の根底の科学的な根拠づけなどは何もありません。理由づけも無く既にあるタイムマシンを利用して過去に行く、という話であり、要は過去に行くという設定だけを利用してあるだけなので、SFというよりはもはやファンタジーという方がしっくりくる気がするほどです。

まあ、これはSFの定義にも関わってくる話ですが、そういうことはどうでもいい話でもあります。

とにかく、この作者の文章は心地よい。全く難しい単語は使って無く、こんな文章なら誰にだって書ける、などという不遜なことを言い出す輩が出てきそうな、それくらいに普通に思える文章です。

でも、このタッチで書けることはなかなかにできなさそうです。ほとんどの物語が、青春恋愛小説、と分類できそうな内容ですが、それでいて、全く湿った所がありません。それどころか、普通の言葉で若者の行動をさらりと描写することで、彼らの心裡を上手いこと表現しています。

ここのとは先に読んだ『タイムマシンでは、行けない明日』でも感じたことで、短めの文章でたたみ掛けるように描きながら、どこか俯瞰している印象なのです。

この作家の描く物語には全く「毒」がありません。暴力らしい暴力も無く、勿論悪人も出てきません。ただ、たんたんと事実を列挙しつつ、それでいながらどこかユーモラスで、ひねりも効いています。

軽く、時間も取らずに読めるので、もっと他の作品も読んでみようと思います。

ちなみに、本書の装丁もお笑いコンビキングコングの西野亮廣さんの手になるものです。私の中では、時計が組み込まれた自転車に乗っている女の子、というイメージは、背景描写も含めて予想外に良いものでした。

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