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米澤 穂信 王とサーカス


「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」「ミステリが読みたい!」という三賞において第一位になるという三冠を達成した長編推理小説です。

ある仕事の前のりでネパールの首都カトマンズに来ていた太刀洗万智は、たまたま王宮で起きた王族殺害事件に遭遇します。早速その事件を取材しようとする太刀洗でしたが、取材のために会った軍人が翌朝死体となって発見されるのでした。その軍人は、ジャーナリストである自分と会ったために殺されたのか、それとも他の理由があったのか、太刀洗万智はジャーナリストとしてその軍人の死の真相をさぐるのでした。

本書が三冠を達成するほどに面白いのかというと、よく分からないというのが本音です。ミステリーとしてはこの作者の『真実の10メートル手前』のほうを面白いと感じたのは何故なのか、それは、ストーリー自体の面白さが謎解きの心地よさを上回ったことにあるのではないかと思っているのです。

舞台がカトマンズという見知らぬ街であり、その町の様子が詳細に語られていて、歴史上の事実である王族の殺害という一大ニュースを背景とした物語である上に、掲げられたテーマがジャーナリストとしての太刀洗万智にとって本質的なものであることから、太刀洗万智の心象の描写が上手く、物語として魅せられたと思われます。

主人公が殺された軍人と会った際に、「お前はサーカスの座長だ。お前の書くものはサーカスの演し物だ。我々の王の死は、とっておきのメインイベントというわけだ。」と、言い切られます。ジャーナリストとしての心構えを問われた太刀洗は、その指摘に対しきちんと反論することができませんでした。

「悲劇を娯楽として楽しんでいる側面」を指摘され、そのことを否定できなかった太刀洗は、自分の仕事について、「知る」ということについて、そして「伝える」ということについて深く考察することになります。

結局、その太刀洗が事件の真実を暴き、その裏に隠された事実を明らかにするという謎ときの部分も勿論面白いのですが、太刀洗万智が自分の仕事、「報道」という言葉の持つ意味をきちんと認識する過程も含めて丁寧に描写してある、そのことが読者に受け入れられたのではないでしょうか。

ミステリーとしても勿論素晴らしく面白いのです。その上で太刀洗というキャラクター造形が見事であるだけ、彼女が思い悩むその真摯な姿に読者も頼感情移入するのだと思いました。

他にも読み応えのある作品が多数ありそうです。それらの本を読むのが楽しみな作家さんであるのは間違いありません。

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