鈴木 英治 三人田の怪-口入屋用心棒(32)





前巻では、南町定廻り同心樺山富士太郎の父親一太郎が、かつて起きた「北国米の汚職」事件について残した帳面を探す山平伊太夫に富士太郎が拉致されるという事件が起き、最後には拉致の犯人である山平伊太夫であろう死体が発見される場面で終わっていました。

本書はその事件が起きた真の理由が明らかになります。

本書は冒頭で元気を取り戻した富士太郎の様子が描かれています。やっと拷問の悪夢からも解放されつつある富士太郎が目覚め、そこに富士太郎を起こしに来た智代とのいちゃつきの場面や、家族三人で朝餉を食している幸せを絵にかいたような場面が数頁にわたって描写されています。

このところ、こうした事件の本筋とは関係のない、人物の雰囲気、環境をゆっくりと描写する場面が増えているように思えます。これは、富士太郎についてだけのことではなく、湯瀬直之進や倉田佐之助についても言えることです。

こうした描写は、物語の印象を和らげ、人物を浮き上がらせるには良い手法なのかもしれませんが、それが頻繁に続くと若干食傷気味にも感じられてきます。

その後、鎌幸が正体不明の賊に襲われ、やっとのことで危機を脱した鎌幸が、直之進に用心棒を頼むことからこの物語の本筋に入ります。

鎌幸を、そして三人田という刀を狙う追跡者の手をかいくぐりながらも鎌幸から話を聞き出した直之進は、佐之助の手助けを得ながら、新たな事実を探り出すのです。

他方で富士太郎は、上司荒又土岐之助に励まされながら、父親の残したであろう帳面を探す一方、自分の拉致事件の黒幕でもあると目星をつけた、黒崎欽之丞という徒目付に迫っていきます。

そして、いつものごとく富士太郎の探索の線と、直之進の探索の線とが交錯するのです。

今回も、富士太郎に変わった途端に、首なし死体の身元が判明するとか、鎌幸が遠藤信濃守の面前で鎌幸が三人田を盗み出した話をしながらも、多分、何のおとがめもないことなど、少々変な点はあります。

しかし、前回書いたようにそういう点は考えずにただ楽しむ、そういう分野の小説だと思っています。

そして、本書で、前々巻で描かれた刀剣の写しに絡む話から始まった一連の流れは一通りの結末を見るのです。
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR