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上田 早夕里 深紅の碑文(上・下)







上田早夕里氏のSF巨編『華竜の宮(上・下)』の続編です。上下巻を会わせて1000頁を超える作品で、読むのに結構時間がかかりました。でも、面白い。

前巻では、最短で十年、最長でも五十年の後に地球に再度大規模な地殻変動≪大異変≫が訪れること判明し、それに人類としてそれぞれの立場で対処しようとするところで終わりました。

本書はその後の人類の動向を描いています。

まず、≪大異変≫の到来を知った青澄は、海上民のオサ・ツキソメとの約束の、マルガリータシリーズと呼ばれる海上都市の建設の承認を得ることなどを果たした後に、外務省から身を引き、パンディオンの理事長として民間からの救済活動に身を投じています。

その青澄の人工知性体であるマキは、青澄の外務省退職時に機密保護のために関連情報を消去された知性体として、女性の人格を持った知性体として生まれ変わっています。

本書で中心となるのは、青澄以外は新しい人物たちです。本書では、新たに<ラブカ>という、海賊とも異なる反陸上民的存在とも言うべき集団がおり、その集団の一つのリーダーとしてのザフィールという男が重要な位置を占めています。

海上民への支援活動さえも反対し、ボランティア活動をしている支援民らを襲撃し、殺しまくる<ラブカ>です。青澄は<ラブカ>の代表としてザフィールと和解にこぎつけたいと努力するのですが、ザフィールの陸上民への不信感は根強く、なかなか話し合いができません。

そしてもう一人、星川ユイという女性がいます。本書の冒頭では少女だったユイは、物語が進むと、DSRD(深宇宙開発協会)に勤務し、無人宇宙船「アキーリ号」の開発に携わります。

彼女及び彼女の属するDSRDの立ち位置は、終末を迎えるかもしれないこの地球の現実の中で、それでも闘争に明け暮れるしかない人類の、もしかしたら、わずかな良心的存在として描かれているようです。

また、<調和の教団>のアニス・C・ウルカという祭司を務める女性がいます。宗教団体の一員ではありますが、青澄のように民間における救援団体として働いている人物で、青澄との間にわずかながらも心の交流を持つ存在です。

青澄、ザフィール、ユイという三人の動向を、視点を変えながら交互に描き、それぞれの生活の中で、やがて到来することが確実な≪大異変≫に向けてたくましく生きる人々の姿が描かれています。

本書で特徴的なのは、ザフィールは勿論、敵役として登場しているかのようなNODEという政府連合の立場などにしても、それぞれの行動を、各立場でのそれなりの意義をもった行動として描いてあることです。

言わばシステムとして、この世界での各組織の存在意義についてまでもよく考察され、その意義に基づいた行動として描かれているのは、なかなかに得難いものだと思います。

それは、確実に訪れる≪大異変≫とその後の「プルームの冬」に向けた人類の生き残り作戦と、海上民の陸上民への怨みに基づく闘いとを描き出すことでもあります。そしてそのことは、価値観の違いや、人間的な恨みの感情に基づく闘い、それとは別な経済的な思惑による闘争など現代社会で起きている闘いの縮図のようでもあります。

本書は「オーシャンクロニクル・シリーズ」というシリーズに位置づけられる小説だそうです。今後の地球の物語や「アキーリ号」の向かった先である惑星マイーシャ開拓史なども描かれる予定になっているらしく、楽しみに待ちたいと思っています。( 上田早夕里・公式サイト : 参照 )
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No title

こんばんは (*^^*)

実は私も先日 読み終わりました!
そのうちレビューをあげるつもりです (*^o^*)
読み終わるのに時間がかかりましたが、面白かったです。
特に下巻は何ヶ所か感動してしまって泣きながら読んでいました。

"今後の地球の物語や「アキーリ号」の向かった先である惑星マイーシャ開拓史なども描かれる予定"
↑これ、本当ですか!?
知らなかったのでとても嬉しいです(*^o^*)
いろんな人の今後が気になってしまって、続編みたいなの出れば良いなと思っていたんです。
楽しみが増えました (^^♪

Re: No title

> 実は私も先日 読み終わりました!
> そのうちレビューをあげるつもりです (*^o^*)

そうなんですか。
ひだまりさん。の感想を読むのが楽しみです。

> 読み終わるのに時間がかかりましたが、面白かったです。
> 特に下巻は何ヶ所か感動してしまって泣きながら読んでいました。

そうですね。
前巻の世界観に惹きこまれたわが身としては、1000頁を超える本書も、長くはありましたがやはり同様に魅せられました。

> "今後の地球の物語や「アキーリ号」の向かった先である惑星マイーシャ開拓史なども描かれる予定"
> ↑これ、本当ですか!?

「上田早夕里・公式サイト」に書いてありましたよ。
ルーシィの物語なんかも予定しているそうです。

やはり今後の展開が気になりますよね。
私も楽しみにしていきたいと思っています。

あらためてSF作品の面白さを再認識しているところで、往年の名作を読み返しているところです。
近年のSFは梶尾真治か小川一水くらいしか読んでいないので、本作を知ると近年のSFもよさそうですね。

また面白い作品があれば教えてください。
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