上田 早夕里 夢みる葦笛




全体を通じて、人間の身体への改変を中心に、異形のもののありようを描き出している全部で八話からなる短編集です。

なかなかに考えさせられる物語でもありました。以前読んだこの作者の日本SF大賞受賞作である『華竜の宮』でも一つのテーマになっていた、人間の体の改変はどこまで許されるのか、ということも問いの一つになっています。

どこまで手を入れれば最早人間とは呼べなくなるのか。それは、逆に言えば、人工知性は人間になりうるのかという問いをも内包しており、最終話の「アステロイド・ツリーの彼方」はまさにそういう問に対する答えのような物語でした。

「夢みる葦笛」 ホラー作品として書かれたものだそうです。後にイソアと呼ばれる、頭がイソギンチャクのようにになった人たちは、長い触手を擦り合わせて人の心に染み入る音楽を奏で始めます。しかし、主人公にとっては「人間の精神を削り取っている」存在だったのです。

「眼神」 幼なじみに憑依した何者かを落とそうとする主人公です。しかし、その結果は・・・。

「完全なる脳髄」 生体脳と機械脳を人工の身体に持つ合成人間であるシムと呼ばれる存在は、生体脳を複数個つなげれば普通の人間になれるものなのか、やってみることにした。

「石繭」 ショートショートです。電柱の先端にはりついた白い繭から出てきた宝石のように煌めく石を食べると、封じ込められていた他人の記憶がよみがえってくるのだった。

「氷波」 総合芸術家広瀬貴の人格が移された人工知性体が、ここ土星の衛星の一つミマスへ、土星の輪でサーフィンをしたいとやってきた。

「滑車の地」 冥海と呼ばれる泥の海に立つ幾本もの塔のある世界での、この塔に生活する人々の想像を絶する物語。

「プテロス」 プテロスとは主人公である生物学者の志雄が片利共生する異星の飛翔体生物のことで、ある日、この異星の地上へと落下してしまう。

「楽園」 仮想人格を作るメモリアル・アバターに死んでしまった恋人に関する情報を注ぎ込むと、それは一個の人格として存在するのではないか。SF的な一編の恋愛小説と言えるかも。

「上海フランス租界祁斉路320号」 タイムトラベルものと言っていいものか、並行世界(パラレルワールド)ものと歴史改変ものとの組み合わせというべきかもしれません。一人を救うために、並行世界での別の一人を見殺しにする、その相反する事態にどう対すべきか。

「アステロイド・ツリーの彼方」 人工知性体の物語と、一応は言えるだろうけれど、その知性体に人工の身体を持たせたり、代替現実システム(SR)などの技術を用いて人間の感覚をも備えた知性の存在はどのように評価されるのか。宇宙開発に期待される人工知能の行方は?

冒頭に書いたように人工知性と人間という存在についての考察は、つまりは人間という存在そのものについての考察に至るようです。本書は、その問いに対するSF的な設定のもとにこの作者がSFを通して考察した物語集だと言えそうです。

でも、そうした理屈を抜きにして単なるホラー、SFとして楽しむことも勿論でき、そしてそのような物語としてもかなり読み応えがあると思います。
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