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池井戸 潤 陸王




『半沢直樹』で一躍名を挙げた池井戸潤の、『下町ロケット』と同じく、中小企業の商品開発にともなう苦労を描いた痛快経済小説です。

埼玉県行田市にある老舗足袋業者「こはぜ屋」社長の宮沢紘一は、足袋屋としての将来に希望を見出せず、老舗足袋屋としての技術を生かせる分野と思われるランニングシューズを新規開発し、業界へ参入しようと考えます。

しかし、銀行の営業マン、スポーツ用品店の店主、シューフィッター、新素材の特許技術を有する職人気質の中小企業社長等々の知恵を出してもらっての開発も、当然のことながら必要な資金繰りや、靴を構成する新たな素材探し、それに既存の大企業による妨害工作などの壁が立ちふさがるのです。

そうした壁の一つを乗り越えるとまた現れる新たな壁を何とか乗り越えながら突き進む「こはぜ屋」の姿は、『下町ロケット』の佃製作所の姿に重なり、同じように読者の胸をうつ作品として仕上がっています。

そもそも従業員二十人という小企業の強みは、会社百年の歴史が有する足袋を生み出す技術力であり、縫製の職人たちではあるのですが、いかんせんランニングシューズとなるとその素材探しから始まり、それには金もかかれば人手も足りません。

本書は、会社が有する技術を利用してロケット開発に参画したり、心臓弁を開発するという『下町ロケット』のように、会社が主体となって苦難を切り開いていくという話ではありません。

そもそもの発想の発端からして銀行の営業マンからの新規事業を起こすことを勧められたことから始まるように、宮沢社長を中心とした「こはぜ屋」に多くの人々が力を貸すという形を取っています。

例えば、資金繰りのみならず、新規事業に関連する人材を紹介するのも銀行の営業ですし、シューズの素材に関する特許を持っている人物や、シューズフィッター、走ることの専門家など、多くの人が集まり、知恵を出し合ってランニングシューズを作り上げているのです。

その上で、出来上がった靴を実際に履いてその具合をフィードバックするランナーが加わります。

更に、痛快小説での魅力のある敵役が必要ですが、勿論本書でも大手スポーツメーカーがその役を担い、あの手この手での嫌がらせ、より具体的な妨害工作を仕掛けてきます。

そして銀行の存在です。資金繰りに苦しむ「こはぜ屋」の資金調達に際し、壁として立ちふさがるのです。その役が支店長であり、銀行の貸付担当であったりします。

そうした事がらの一つ一つに、走ること、走るための靴についての作者の綿密な調査に裏付けられた説明が加わり、物語に一段と奥行きを加えています。

その上で、痛快小説として、読者のカタルシスを十分に満たすだけの困難さとその壁の打破するための努力とがうまく組み合わされて上質な物語と仕上げられているのは、やはりこの池井戸潤という作家の力量という他ないと思われます。

本書も役所広司や寺尾聰という名優をはじめ、その他の個性的な役者たちによりドラマ化されています。これがやはり面白い。本書の物語の流れをそのままにドラマ化している点も見逃せません。

蛇足ながら、この作者の『空飛ぶタイヤ』という作品も映画化され、2018年には公開されるそうです。こちらも楽しみです。
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