佐伯 泰英 流鶯: 吉原裏同心(二十五)




吉原裏同心シリーズの第二十五弾です。

吉原会所に突然、「裏同心」を希望する女性が現れた。十八歳と若い「女裏同心」に戸惑う吉原裏同心の神守幹次郎と会所の面々。一方、札差の伊勢亀半右衛門が重篤な病に罹り、幹次郎は遺言を託される。遺言には、薄墨太夫にかかわる衝撃の内容が書かれていた―。薄墨太夫、幹次郎、汀女にとって大きな転機となる内容とは何か。シリーズ最大の山場が待つ第二十五弾! (「BOOK」データベースより)


冒頭には吉原の「裏同心」志願だという嶋村澄乃と名乗る娘が現れ、会所はひと騒ぎになる様子が描かれています。一方、薄墨太夫の贔屓筋である札差の伊勢亀半右衛門が危篤に陥り、幹次郎は半右衛門から重大な遺言を託されるのでした。

本書は剣客としての幹次郎が活躍する場面はありません。それでも、このシリーズでは久しぶりに物語を堪能することができました。それだけのインパクトと、人を惹きつけるストーリー性がありました。

この頃の本シリーズは若干マンネリに陥り、本来の面白さが失われつつあるように感じていました。ところが、新たな登場人物、それも剣の使い手である若い娘を裏同心見習いとして登場させ、更にはこのシリーズの重要な登場人物の一人である薄墨こと加門麻の身の上に重大な変更を加え、物語として強烈な展開としています。

中ほどに薄墨に懸想した侍との小さなエピソードをはさみつつ、札差筆頭行司である伊勢亀半右衛門の最後に立ち合い、半右衛門の息子である千太郎とも知己を得た幹次郎です。江戸の大商人とも繋がりを得、妻の汀女と共にまた新しい段階へと進むのです。

こうして、アクションメインであったこのシリーズのいつもの展開とは異なり、本書はどちらかというと吉原を舞台にした人情劇に近い話となっています。痛快時代小説としてではなく、実に小気味いい物語の流れであり、個々の活劇的な出来事としては大きなものは何もないのですが、インパクトの強い物語展開となっているのです。

次巻からはまた新しいシリーズ環境で面白い物語展開を期待できそうな本書の流れでした。
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