月村 了衛 機龍警察 狼眼殺手




機龍警察シリーズの五作目です。

第一作目『機龍警察』では「龍機兵(ドラグーン)」そのものや「龍機兵(ドラグーン)」が属する警視庁特捜部の説明と、操縦者の姿俊之の過去といったこの物語の紹介的な作品でした。

その後、第二作目『自爆条項』ではIRAとライザ・ラードナーの過去と鈴石緑技術主任の関係が、第三作の『暗黒市場』では武器密売とユーリ・オズノフ元警部の過去、第四作『未亡旅団』ではチェチェン紛争で夫や家族を失った女たちによるテロ組織、また紛争地帯に現存する少年兵などの現実に対する問題提起、それに城木貴彦理事官と由起谷志郎警部補の過去などが語られています。

そして本書『狼眼殺手』では、すでに登場人物らの紹介は一通り終わっているためか、これまではっきりとは語られてはこなかった、警察内部に巣食う「敵」の姿がほんの少しだけ明らかにされます。というよりも、本書では謎の暗殺者狼眼殺手に振り回される警察の姿を通して、「警察」対「敵」の構図が明確になるのです。

いや、「敵」も警察内部に存する以上はこの図式は成り立たないでしょうか。そもそも「敵」の正体はいまだ明確ではなく、日本国の利益、存立を考えていることには間違いなさそうなので、その対立の図式もあやふやではあります。

ただ、本書で明らかになる「敵」の姿はごく一部ではあるものの、それは「機龍兵」の秘密にもかかわるものであり、更には世界的な国家の戦略そのものを根底から覆す可能性をはらむものですから、警察組織の在り方にも深くかかわってくるのでしょう。

ここらは実際読んでもらわないと、ネタバレになりかねないところなので深くは書けません。ただ、直接的には本書での具体的な敵対組織は「フォン・コーポレーション」であり、日中合同プロジェクト『クイアコン』に絡む一大疑獄事件へと連なり、そこに狼眼殺手という暗殺者がその立ち位置が明確にされないままに警察の組織を挙げて設けられた捜査本部を振り回すのです。

冒頭、とある中華料理店の一室で会合を開いている四人の男たちが一気に殺される場面から幕を開けます。この幕開けから本書がアクションメインの物語かと思っていると、この事件を含めた連続殺人事件に応じ、特捜部を中心にして警視庁の一課、二課、それに公安も含めた、先には一大疑獄事件まで見据えた前代未聞の捜査本部が設置されるに至り、これまでの四作とは異なる展開になります。

つまりは警察小説としての捜査活動が中心となった物語が展開されるのですが、このシリーズが普通の警察小説同様の展開で終わるわけはなく、実質上特捜の沖津旬一郎の指揮のもとに狼眼殺手という暗殺者逮捕、その先にはフォン・コーポレーションの実態解明へと動き出すのです。

そして終盤にはお決まりのアクション場面も勿論用意してあり、姿、ユーリ、ライザといった操縦者たちも、戦闘のプロとしての顔を十分に見せてくれます。

これまでとは若干雰囲気が異なり、より警察小説としての側面が大きいと思いつつ読んでいた本書ですが、読み終えて見るとやはり重厚感の漂う機龍警察シリーズらしい読み応えのある作品でした。
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