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川口 俊和 コーヒーが冷めないうちに




本書は、著者である川口俊和氏が舞台の脚本として書き、自ら演出も手掛けていた作品をこの小説の担当編集者が見て感動し、即小説化を持ちかけて実現したものだそうです。2017年 本屋大賞ノミネート作品でもあります。


とある町のとある喫茶店のとある席には望んだ通りの時間に移動ができるという都市伝説がありました。ただ、過去に戻るには非常にめんどくさいルールがあったのです。

例えばそれは、この喫茶店を訪れた事のない者には会うことはできない、だとか、過去に戻っても現在を変えることはできない、だとか、過去に戻れるのは注がれたコーヒーが冷めてしまう間だけなど、そのほかにも沢山の細かいルールがありましした。

時間旅行の話は数多く書かれていますが、本書のような切り口がまだあったのだと、あらためて感じ入るしかない物語です。

第一話「恋人」は、結婚を考えていた彼氏と別れた女の話。
第二話「夫婦」は、記憶が消えていく男と看護師の話。
第三話「姉妹」は、家出した姉とよく食べる妹の話。
第四話「家族」は、この喫茶店で働く妊婦の話。


どの話も心あたたまる、しかしせつない物語でしたが、特に第二話では不覚にも涙しそうになりました。

全部の物語が家族の話であり、誰しもが心のどこかに抱いているであろう家族への哀しさに満ちた思いを、情感豊かに、若干の感傷も加え描いてあり涙腺を刺激してくるのです。

全体的に計算され尽くした全四編の物語です。ですからそれぞれの話で描かれている細かな事柄が、後の話の伏線にもなっていて、あらすじを紹介しようとすれば、その紹介文自体がネタバレにもなりかねず、内容については触れないことにしました。

ただ、例えばAmazonのレビューを見ると酷評ばかりです。人物の書き込みがないとか、そのために物語が薄いだとか、話の展開がありきたりだとか散々です。

たしかに、そこで書かれていることも分からないではありません。それらの言葉に反論できないでいる自分がいます。

そうした言葉は的外れではないにしても、それでもなお、私にとっては面白く、心に響く物語でした。物語の「薄さ」とか、ありきたりな展開だという批判は余分なものを削ぎ取った簡潔さと映り、一場面ものの物語としてとても面白く読んだのです。

こうなると、あとは好みの問題としか言えないのでしょうか。本屋大賞のノミネート作品でもあるのですから多くの人に受け入れられている点も事実でしょうし、逆に薄っぺらいと感じた人もまた多いのでしょうから。

ただ、一点だけ、時間旅行ものでお決まりのタイムパラドックスの問題、それも過去の自分に出会った場合どうなるのかの点をあえてなのか無視してあります。ある物語で、隠れていた筈の自分が隠れていない点を何も説明してありません。本書は論理を追及するSFではないので、その点に言及することに何の意味もないのでしょうが、SF好きとしては若干気になりました。

それにしてもこの作品のもととなった舞台を見て見たいものだとも思います。そのうちにドラマ化もされるのではないでしょうか。

ちなみに、続編の『この嘘がばれないうちに』という作品が出ているそうです。早速読みたいと思います。
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