池井戸 潤 空飛ぶタイヤ





主人公赤松の経営する赤松運送のトレーラーが死亡事故を引き起こします。事故を起こしたトレーラーの製造元であるホープ自動車は、その事故は赤松運送の整備不良による事故だとの結論をだします。当然のことながら赤松運送は社会的に非難を受け、取引先からは取引を停止されます。

倒産寸前の状態に陥りながらも、赤松は自社の整備不良という結論を出したトレーラーの製造、販売元であるホープ自動車の対応に不審なものを感じるのでした。

一方、ホープ自動車カスタマー戦略課の課長沢田悠太は、赤松運送からの再度の調査依頼を単なるクレーマーのたぐいだとして無視した態度を取り続けます。しかし、次第に自社内の品質保証部の態度がおかしいことに違和感を感じ、調査を始めるのです。

また、赤松運送から融資依頼を受けた東京ホープ銀行自由が丘支店の担当者は、赤松運送が有力取引先との取引が打ち切られたこともあり、融資に難色を示すのでした。そして東京ホープ銀行本店営業本部の井崎一亮は、自分が担当するホープ自動車製のトレーラーが起こした事故であることに一抹の不安を抱きます。

赤松は長男の拓郎が通う小学校のPTA会長を引き受けていましたが、拓郎がいじめにあっているらしいこと、また一部の親が赤松運送の事故を問題にしているらしいことを知り、そちらでも問題を抱えることになります。

まさに四面楚歌の中、赤松は赤松運送の専務で、赤松の親の代から勤めている宮代直吉らに助けられながら、問題のトレーラーを製造した財閥系の会社であるホープ自動車に対し闘いを挑んでいくのでした。



これまで『オレたちバブル入行組』や『下町ロケット』更に『陸王』など、池井戸潤の痛快経済小説を胸躍らせながら読んできましたが、本書はそれらの作品を上回る熱量を持った作品として一気に引き込まれてしまいました。

この作品は、2002年に現実に起きた三菱自動車のトレーラー事故をモデルにしている作品であるため、被害者、そして加害者となった運送会社が現実に存在していることがいつも頭にあり、この作品を単純に面白いとして読むことに微妙に後ろめたい気持ちを持ちながらも、引き込まれていきました。

本書実業之日本社版の文庫の解説には、「現実の事故をなぞって小説を書いたと誤解しかねないが、一読すれば明らかなように『空飛ぶタイヤ』は、全く独立した物語である」という言葉にホッとしたものです。

ただ、本書はその事故がきっかけに書かれただけだということは頭では理解していたのですが、現実の事故では事故を起こした会社は似たようなことがあったのだろうと考えずにはおれませんでした。

そした気持ちを抱きながらも、「熱い物語」という言葉がまさに本書を如実に表した言葉と言ってよく、主人公の熱さに引きずられてしまったと言わざるを得ません。そのくらいこの物語の熱量は凄いのです。

本書は赤松社長の視点を中心に描かれているのはもちろんなのですが、他方でホープグループ内部での視点も描き出してあります。ホープ自動車自身の沢田悠太、それに東京ホープ銀行の井崎一亮がそれで、こちらも財閥系の巨大企業内部の動向を、財閥系企業の持つ優越感、その内部でのサラリーマンとしての上昇志向、他方で営業マン、また銀行マンとしての良心などを複雑に絡ませた物語として成立しているのです。

この三つの視点が絡み合い、とくに赤松社長の家庭的な問題も加わって物語は加速度的な展開をみせ、目を話すことが出来なくなりました。

登場人物が、とくに敵役であるホープ自動車の重役の描き方などがステレオタイプであるという印象はありますが、その悪役が生きていることも事実で、赤松社長の前に立ちはだかる巨大な壁としての存在感を増しています。

だからこそ、そうした赤松社長に差し伸べられる救いの手が一層感動的になるのでしょう。まさに解説にあった「熱い物語」という言葉がピタリと当てはまる物語でした。

ちなみに、本書はWOWWOWで仲村トオル主演でドラマ化されています。また、2018年6月には長瀬智也を主演に、今をときめく高橋一生やディーン・フジオカといった役者さんを配しての映画化も予定されているそうです。

また、上記書籍イメージは実業之日本社文庫版ですが、2009年には講談社文庫版が上下二分冊で出版されています。
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