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知野 みさき 雪華燃ゆ: 上絵師 律の似面絵帖




長編人情小説「上絵師 律の似面絵帖シリーズ」の第三弾です。

本書冒頭から涼太から求婚を受けた律の姿が描かれています。思いもかけない突然の求婚だったため、嬉しいながらも、何かと気もそぞろな律でした。

一方、前巻の終わりに受けた着物の上絵の仕事が上手くいかずに悩む律の姿が本巻の全編を貫いています。この仕事は雪永からの依頼であり、池見屋の類の妹の千恵に贈るのだそうです。しかし、その千恵の気にいる下絵が描けないのです。

着物の上絵の下書きがなかなか気にいって貰えない律でしたが、そこに、お勢という女からの、金を騙し取った将太という男の似面絵を書いてほしいという頼みが舞い込みます。

その後、千恵に会いに行った帰りに将太らしい男を見かけた律は急いで皆に知らせますが、皆が将太を捕まえに行くと既に将太は逃げおおせていました(「春の兆し」 )。

雪永から依頼の着物の下書きもはかどっていないなか、今度は慶太郎が店のお客のおせんという女を連れてきて、おせんが捜しているとい姉さんの似面絵を書いて欲しいと言ってきました。弟の頼みでもあり似面絵を描く律でしたが、このおせんという女の裏の顔が知れるのもすぐのことでした(「姉探し」)。

おせんの事件が落ち着くと、今度は涼太の父親で青陽堂の主の清次郎が仲間内の集まりで吉原へ泊まり、いつまでも帰ってこないという事態が起きます。共に吉原へ行った仲間に聞くと、翌朝には帰った筈だというのでした(「消えた茶人」)。

ある日千恵のとの話の中から雪華を描くというアイディアが浮かび、借り物の雪華図説をもとに仕上げた下絵はやっと千恵の気にいります。吉原で涼太の相方だった女郎の足抜け騒ぎもありますが、なんとか着物をしたてることができるのでした(「雪華燃ゆ」)。


まだあまり世に知られていない作家さんなのでしょうか。ネットでもあまりレビューを見かけません。

新たな人情作家としてなかなかに読み応えがあると思うのですが、時代小説が一つのブームとなっているとも聞くこの頃です。何かきっかけがあれば一気に火がつくのではないでしょうか。

ただ、前に読んだ『しろとましろ 神田職人町縁はじめ』は、面白くないということはないのですが、今ひとつ物語世界に入り込めず、小説としての奥行きの無さを感じたことからすると、作品に安定感がないのかもしれません。

でも、このシリーズに限定して言えば、物語の形態が似面絵という縛りがあるためか、捕物帳というには主人公の活躍は無く、かといって恋愛ものでも勿論ありません。人情ものというべきなのでしょうが、それにしては似面絵に基づく各話の出来事が少々安易な気もするなど突っ込みが色々と出てきます。それでもなお個人的には物語として面白く、引き込まれるものがあるのです。

このシリーズはまだまだ脇を固める人々についての書き込みなどが為されてくるでしょうし、そうすれば物語としての厚みも一段とできてくると思われます。

律という女性の成長譚ともとらえられるこのシリーズは、これからの人情小説の書き手としてのこの作家の伸びが期待できるシリーズだと思います。
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