今野 敏 棲月: 隠蔽捜査7




今野敏の隠蔽捜査シリーズの第七弾の長編警察小説です。


ある日電車の運行が止まり、その原因がシステムがダウンしたことによると聞いた竜崎は、皆が調査対象場所が管轄外であることやこの程度のことでと二の足を踏む中、その原因の調査を命じます。

そのうちに今度は銀行でのシステムダウンが起きます。都市銀行のシステム障害だということであり、そこにも捜査員を送るように命じる竜崎でした。

当然のことのように第二方面本部の弓削方面本部長からの管轄違いとのクレームが入りますがまったく意に介さずにいたところ、今度は警察本部の前園生活安全部部長から捜査員を引きあげろとの連絡が入ります。しかし、これも無視する竜崎でした。

家庭では息子の邦彦がポーランドへ留学したいと言いだしており、その相談に乗ろうとしていた竜崎ですが、自分の身にも異動の内示が出そうだとの噂が耳に入り、動揺している自分に驚くのでした。

翌日早朝殺人事件が起き、大森署に捜査本部が置かれることになります。被害者が少年、それも以前から目をつけられていた非行少年ということもあり、仲間と思しき少年らに話を聞いてもなかなかこれという話を聞くことはできないでいました。

なかなか犯人に結び付く手掛かりが見えないまま、システムダウンした電車や銀行へ捜査員を派遣したことへの各方面からの反発をさばきながら、捜査本部とシステムダウン事件の両面に対処する竜崎でした。




いつもの通り、一旦読み始めるとやめられませんでした。といっても、新刊書で333頁という分量でありながらもそれほど時間はかかりません。会話文と改行が多いために頁数からくる見た目の厚さほどには時間はかからないと思います。

とは言え、物語の内容が無いわけではなく、読後は十分な読み応えがあるのもいつもの通りです。

ネット社会での情報操作の怖さと少年犯罪の特殊性を考慮しつつ、竜崎には理解しがたい人間関係のしがらみを原理原則論で貫き、伊丹俊太郎刑事部長の同意を得ながらも思う通りの捜査方針を貫く竜崎の姿は、痛快であり、爽快感すら感じます。

いつもの通り合理的と信じる途を歩んでいる竜崎の姿が描かれている本書ですが、かつてとは微妙に異なる思考、感情を抱く自らを疑問に思う様子などもあって、大森署に赴任してからの竜崎を思い起こすかのような流れとなっています。

それは、本書では序盤から竜崎の異動の噂の話が伊丹からもたらされ、いつもと異なる竜崎がいることも影響しているようです。竜崎自身が、その移動の噂に予想以上に動揺する自分や、大森署を去りたくない自身の心に気付き、改めて驚いたりという姿があるのです。

その姿は、竜崎自身の家庭での、妻冴子との会話にも表れています。「大森署があなたを人間として成長させた」という冴子の姿は、いつもの竜崎家の姿とはかなり異なり、警察官竜崎と、それを支える妻冴子の関係がよくあらわされています。

しかしながら、その冴子も、竜崎に対する態度とは異なり、息子のポーランドへの留学の問題で、いざ息子が自分のもとからいなくなる話になると、途端に母親としての姿が表面に出てくる様子などには、感心すると同時に温かく思え、物語の厚みを感じます。

次巻からは大森署赴任当初のような、竜崎のことを理解する人間が誰もいない状況を最初から繰り返すことになると思いますが、シリーズのマンネリ化も防ぎ、新しい風を入れる手法として、このシリーズのファンとしては今回の異動の話は大歓迎というところでしょう。

次巻が発売されるのがかなり待ち遠しいと思わせられる一冊でした。
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