誉田 哲也 ノーマンズ・ランド




姫川玲子シリーズの第九弾となる、長編推理小説です。

時系列的に三つの流れがあり、それが交互に語られ、最後にそのすべてが一つにまとまります。



一つは三十年前のから始まる、江川利嗣と庄野初海という二人の高校生の純愛の物語です。しかし、その付き合いはある日突然に失われてしまいます。その後は江川利嗣の視点で語られます。

もう一つは姫川玲子を追いかけるこの物語の本筋の流れです。葛飾署管内で起きた若い女性の殺人事件のため、姫川は葛飾署におかれた捜査本部に入ることになります。ところが、犯人と目される男は既に別件で本所署において逮捕されていました。しかし、本所署の様子がおかしく、姫川は何とか本所署の事件の内情を探り出しますが、そこでは思いもかけない裏の事情がありました。

そしてもう一つ、ガンテツこと勝俣健作警部補の動きを追いかける流れがあります。勝俣刑事は民自党本部の広報本部長の鴨志田に呼び出され、あるビデオを見せられて、その後始末をするようにと言われます。



誉田哲也という作家の特に警察小説での小説手法として、時系列を違え、視点の主体をその場面の中心人物に据えた書き方をされることが多いように思います。そして、ほとんどの場合においてその手法が実に効果的だと感じられるのです。

というのも、視点の主の主観、内心に深く分け入り表現することで、読者もその場面に感情移入しやすくなると思われるのです。

これまでのこのシリーズも当然面白く読んだのですが、本書では特にエンターテインメント小説としての魅力が増しているようです。それは、前作である『硝子の太陽R』あたりから特に思ったのかもしれません。

もともと、姫川玲子シリーズでは特に姫川班のメンバー個々のキャラクターの設定が面白く、その個性がチームとしてうまく機能していました。それが、巻数を重ねるにつれ、物語世界の構築も重ねられたためなのか、とくに姫川と勝俣刑事のキャラクター描写が面白いと感じるようになってきました。

その個性の表現の方法として、これまでのシリーズの中でも同様だったのかは覚えていませんが、会話の流れの中での地の文で書かれる内心の声が強烈です。

例えば、目撃者に参考人の写真を見せたときの「こんな不細工じゃありません」との目撃者の言葉に対し、“それ、そこまでハッキリいわなくてもよくないか。”とあったり、武見諒太検事との会話の中で、茶化そうとする武見に対し、“黙って聞け。”との一言があったりします。声に出してではなく、あくまで内心の声であって、実に効果的です。


その流れで言うと、シリーズの主人公である姫川玲子というキャラクターが、シリーズの中心に強烈に据えられているのもまた、魅力の大きな要因だと思います。シリーズものの中でも特に芯が強固に設けられているのです。

また、姫川のように強烈な個性を持ってシリーズの毒の側面を担当する勝俣健作警部補の存在も大きいのですが、その勝俣の来歴の一端が語られているのも魅力の一部でしょう。


勿論、ストーリー自体もよく考えられています。今回は特に自分の属する捜査本部の事件ではなく、他の署の事件の内容が自分の事件に絡むというその一事で、他の署の事件の裏側を暴きだすという構造であり、ちょっと気を抜くと全体象が見えなくなりそうな感じもあります。


常に、今後の展開を早く読みたいと期待させてくれるのです。
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