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柚月 裕子 狂犬の眼




私がこの作家にのめり込むきっかけとなった衝撃的な作品が『孤狼の血』という作品でした。本書はその続編です。

孤狼の血』を読んでから二年以上が経っているのでその内容ははっきりとは覚えてはいませんが、確か最後は、大上章吾のあとを継ぐまでに成長した日岡秀一がマル暴の先輩刑事となり、後輩を叱咤というか指導している姿で終わっていたと思います。

本書は、マル暴刑事に復帰する前の、県北の駐在所に飛ばされたときの日岡の姿を描いた、文字通り『孤狼の血』後の日岡の姿を描いた作品です。



県北の山間の町の駐在所に飛ばされた日岡は、駐在所さんとして町の人々を相手にのんびりとした日々を送っていた。久しぶりに晶子のやっている「小料理や 志の」に現れた日岡は、対立する組の組長を殺した容疑で指名手配を受けている国光寛郎を見かける。

そのとき、国光は日岡に自分の正体を明かし、「ちいと時間をつかい。」「目途がついたら、必ずあんたに手錠を嵌めてもらう。」というのだった。

その後、日岡のいる駐在所へ国光が現れ、近くのゴルフ場の工事責任者として挨拶に来たと言ってきた。日岡は、先日「志の」で会ったときも、今回も上司には報告せずにいるのだった。



本書は、前作とはかなり異なります。前作で日岡の眼を通して描かれたのは大上章吾という型破りの男であり、その大上と付き合う極道の姿でした。

今回は、日岡と国光の物語です。極端に言えば、この二人だけを描いていると言ってもいいかもしれず、二人の男の繋がりを、広島弁に乗せて叩きつけるように描き出してあります。

本作品で、日岡は早く中央に戻りたいと切望し、それなりの成果を上げることを狙っていますが、そこに指名手配犯の国光という男が現れます。

ここで、指名手配犯の発見という報告を上に上げない日岡の思惑は、国光は何をしようとしているのかをつきとめ、自分の手柄をより強固なものにしようと図っているように描かれています。

その一方で、大上ならどうしたか、という問いを発して続けてもおり、「暴力団は所詮、社会の糞だ。しかし、同じ糞でも、社会の汚物でしかない糞もあれば、堆肥になる糞もある。」と思う日岡は、国光の正体を知ろうと情報を集めます。

しかし、「堆肥になる糞」であればどうしようと言うのか。その答えを持って行動しているのか、少々疑問には思いました。また、国光が初対面の日岡に対し、「必ずあんたに手錠を嵌めてもらう。」との文言を吐いた理由が不明です。そこをもう少し明確にしてあればとも思ったものです。



一点、印象的な場面があります。国光が駐在所に現れたその夜、カチカチと時計の音が響く自分の部屋で、ひとりで拳銃を分解し、パーツをひとつひとつ丁寧に手入れする日岡の様子が描かれています。迷いに迷う日岡の内心へと踏み込んでいくようで、こうした描写の積み重ねが本書全体を構築しているのだと納得したものです。


日岡と国光の物語だと思う本書の構成は、あくまで警官の姿を描こうとしていた点でも前作の姿とは異なる気がします。大上は悪徳ではあっても警察官として一般市民に被害を及ぼさない方法を考えていました。

本書の場合、同じように一般市民への被害を食い止めようとはしていても、日岡の行動は警察官としての行動以前に、男としての論理が先行し、日岡という男の原点を描いているようです。

こうして見ると、もしかしたら、極道に通じかねない思考方法を持つ男として日岡という男が成長しつつあるとするのならば、そのできあがった大上の代わりとしての日岡という男の物語は更に続くのかもしれないという気がしてきました。

この作者の社会派の一面を前面に押し出した作品としての『佐方貞人シリーズ』に対し、極道シリーズとも呼べそうな男の物語として続いて言ってくれることを期待したいものです。
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