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誉田 哲也 ボーダレス





無関係な四つの話が後に収斂していく、長編のサスペンスミステリー小説です。



森奈緒はクラスメイトの片山希莉が小説を書いていることを知り、次第に彼女と仲良くなっていく。

八辻芭留は、盲目の妹圭の手を引いて森の中を逃げている。父親が何者かに襲われ、それに気づいた芭留が妹を連れて家から逃げ出したのだ。

市原琴音は、妹から無視されている日々の暮らしの中、父親市原静男の経営する「カフェ・ドミナン」の手伝いをしていた。

名前も分からない人物は、毎日垣根の外を通る一人の女性が見えるのを心待ちにしていた。恋をしているのだろう。その彼女が「こっちの世界に、いらっしゃいよ。」と言ってくれた。




何とも、微妙な小説でした。

如何にも誉田哲也の小説らしい、四つの話を視点を変えて紡ぎながら、次第にそれらの話がリンクしていく、それもサスペンス感満載に展開されていきます。


その他にも、細かな二~三の仕掛けがあります。もしかしたら私が気づいていないだけで、他にも仕掛けがあるのかもしれません。

その一つが、片山希莉という女子高生の書いている小説が森の中を逃げている姉妹の話だということです。その姉妹は靴下のまま森の中を逃げているのですが、すぐその次に視点が変わり、森の中を靴下のまま手を取り合って逃げている姉妹の話が続きます。

もう一つは、「カフェ・ドミナン」の市原家の一家団欒の場面で、山の中で死体が発見されたという事件に絡んで、「ストロベリー・ナイト」事件が話題に上ることです。


さらに、本書はよくみると、女子高生らを描いたの青春小説、格闘家である父親から手ほどきを受けている山の中を逃げている姉妹の格闘者、ピアニストだった琴音と現役のギタリストの叶音姉妹の音楽小説、深窓の令嬢と正体不明の女のエロチックミステリー、という異なるジャンルの話になっています。

この点に関しては作者誉田哲也が「私は真面目に嘘をつく」というエッセイの中で、自分は様々なジャンルの小説を書いているのであり、「そんなのが全部交ざったらどうなるのかな」と書いておられます。

また、過去に書いた事件のその後ってどうなったのかな、と考えることもある。たとえば「ストロベリーナイト事件」、とも書いているのです。

その上で、「ここまでの話が全部、新作『ボーダレス』の内容についてだったとしたら、どうですか。」と書いていて、誉田哲也の遊び心が顔を出しているのです。



そして実際、誉田哲也が企図した通りの小説として出来上がっています。


ただ、何も知らないままで本書を読んでの読後感は、単純に、誉田哲也の小説としては普通だった、というものでした。


幾つかの話を同時進行的に進め、後にその話をリンクさせるという手法は決して目新しいものではなく、誉田哲也自身が多用する手法でもあるし、その意味では何ら特別なものではありません。

加えて、結末がどうにも尻切れトンボであり、本当にこれで終わりか、という何となくなし崩し的な終わり方であり、読み終えての欲求不満が残ってしまいました。

さらに言えば、八辻姉妹の父親孝蔵や、深窓の令嬢のその後、その令嬢の相手となる正体不明の女など、誉田哲也の他の作品では緻密に描かれる筈の人間の描写が半端に感じられるのです。

その点でも何となくの違和感が残ることもあり、誉田哲也の小説として面白くはあるのですが、いつもの強烈なインパクトのない作品に感じてしまったのでしょう。


後に誉田哲也のエッセイを読み、少しは納得することもあったのですが、全体的にはやはり不満感は残っています。
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