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麻生 幾 ZERO











本書『ZERO』は公安警察の実態を描く警察小説、というよりも冒険小説と言い切ったほうがいいかもしれません。やっと読み終えたというのが実感です。


本書『ZERO』のあらすじは「BOOK」データベースの文章をもって代えます。原稿用紙で二千百四十二枚にもなるボリュームであり、登場人物も膨大な量で、ストーリーもわかりにくく、私の力量ではまとめることができないのです。

一九四七年の誕生以来、存在自体が国家機密という厚いベールに包まれた全国公安警察の頂点“ZERO”。だがその極秘組織もその巨大さゆえ時代に適合できなくなっていた。そんな時、警視庁公安部外事二課で中国を監視してきたウラの捜査官・峰岸智之は中国大使館による大掛かりな諜報活動事件の端緒を掴むが…。日本スパイ小説の大収穫。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)

47年の封印が解かれ、日本を震撼させる陰謀の幕が開く。立ち向かう、一人の警察官・峰岸。彼は元警視庁長官・鹿取が運営してきた大物スパイを巡り、すべてのウラ情報を握ろうとする“ZERO”と激突する。執拗な妨害を受けながらも捜査を強行する峰岸を苛酷な運命が待ち受けていた…。極秘情報をちりばめ警察小説の新境地を拓く衝撃作。( 中巻 : 「BOOK」データベースより)

峰岸を呑み込む欺瞞と敵意に満ちた世界。様様な罠、裏切りの連続。孤立無援の公安警察官と中国諜報責任者との激闘。日本の機密漏洩者と中国側ディープスロートの正体とは?水面下の戦争が国家に大いなる決断を求める時、男は誇りのため、女は愛のため命を賭ける。逆転に次ぐ逆転、驚異の大どんでん返し。エンターテインメント小説の最高峰。( 下巻 : 「BOOK」データベースより)


本書はその世界観にはまり、一気に読み通してしまう人と、冒頭からつまづいてしまい、上巻すら読み通せない人とに分かれるのではないでしょうか。それほどにストーリーが追いにくい小説です。

なにせ描写が緻密です。本書は公安警察の物語ですが、冒頭から公安警察の対象者への行動確認作業の様子が詳細に語られます。その様子は偏執的といっても過言ではありません。

その上、なぜその行動確認作業が行われているのかは何の説明もありません。こうした説明無しにまずは状況の描写から始めるという手法は珍しくはないにしても、本書の場合かなりの間その説明はありません。そのうちに話の筋道を見失ってしまいそうになります。

この時点で投げ出して染む人もかなりいるのではないかと思います。



しかし、結論から言うと、私は本書にのめりこんでしまいました。

本書の主人公は警視庁公安部外事第二課アジア第一担当部門第二係に所属する峰岸智之警部補です。本書は、その『ZERO』というタイトルにもかかわらず、ZEROは脇役です。主人公は警察庁ではなく警視庁の公安部所属お警察官なのです。

その警察官が、本来見方であるはずの『ZERO』からも、そして中国の諜報組織からも追われる物語です。最終的に話しがまとまらず、尻切れトンボになっているエピソードなど散見されます。特にクライマックスの処理の仕方には異論もあるところです。

それでもなお、本書で描かれる公安警察の実体のリアリズムはこれまで読んだ小説の中ではトップクラスです。加えて、冒険小説としてのストーリーの面白さもまた群を抜いています。



確かに、緻密すぎる描写は冗長に過ぎ、もう少し簡潔に書いてほしいという気持ちもあります。しかし、著者の卓抜な取材力から描き出される対象物の綿密な描写は、現実感の醸成という点ではそのマイナス面を補って余りがあると感じるようになりました。

日本の諜報組織に描き方もそうなのですが、特にそのことを感じたのは後半に描き出される潜水艦内の模様が描き出される場面です。敵対する艦船に対し息をひそめるしかない潜水艦の乗組員の描写の、客観的に描き出されることからくる緊迫感は迫力に満ちています。

ここの描写だけをとればまさに軍事スリラー小説のそれであり、読み手にとっては手に汗握る最も面白い場面としてあります。しかし、本書においては、主人公の逃避行の一場面にすぎないのです。



本書『ZERO』を全体としてみれば、典型的な冒険小説であり、主人公の荒唐無稽としか言いようのない冒険物語を描いてある作品だとしか言えません。


しかしながら、別な側面から見れば本書は警察小説の変形であり、諜報組織を描き出したスパイ小説です。

個人的には、本書で描き出されている世界に身を置いていた人物を知人に持つ身としては簡単に絵空事として片づけられない話でもあります。

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