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朝井まかて 銀の猫





現代の介護職である介抱人として働く一人の女性の生き方を描く、人情味豊かな長編の時代小説です。

銀の猫 / 隠居道楽 / 福来雀 / 春蘭 / 半化粧 / 菊と秋刀魚 / 狸寝入り / 今朝の春


長編小説と書きましたが、実際は主人公のお咲が派遣される客先のそれぞれの事情に一喜一憂する振り回されるお咲の様子が描かれています。



「介抱人」とは、身内に代わって年寄りの介抱を助ける奉公人のことを言います。

そして「鳩屋」は、急須を持つのが趣味の五郎蔵を主人とし、亭主よりも貫目がある女房のお徳が実質店を仕切っている、おなごの奉公人だけを扱う口入屋であり、介抱人も紹介しているのです。

主人公のお咲はこの「鳩屋」でも人気の介抱人なのです。

お咲は出戻りの身であり、別れた夫に母親の作った借財を返すために必死で働いています。この嫁ぎ先で舅の仁左衛門からもらったのが銀細工の坐り猫の根付でした。

お咲には佐和という母親がいますが、この母親が自分の容姿だけを気にかけて家のことは何もしない親で、お咲の悩みの種でもあります。



このほかに「隠居道楽」の話では、深川の干鰯商の相模屋の女隠居の“おぶん”の介抱に派遣されるのですが、このおぶんが物語上重要な役割を果たしています。

さらに「半化粧」という話では、日本橋の杵屋という貸本屋の主である左分郎太が、貝原益軒や、室鳩巣とは異なる今の世の支えになる新しい介抱指南書を作りたいといってきます。



このように、お咲の仕事を通じて語られる江戸の市井の暮らしはこれまでの人情ものとは少し異なります。それは、今の私の生活にも密着する「介護」のことが中心になっているからでしょう。

年寄りの介抱を担っている者の大半は一家の主だという話など、思ってもみない事柄でした。それは町人も武家もなく、一家の主が面倒を見てこそ「主君に忠、親に考」という幕府の指針にも合致するものだったと言うのです。


それでもなお、一般庶民には介護の問題は現代と同様の悩み事があります。そして介護の先には「死」が控えているのであり、そこに人間ドラマが生まれてくるのです。

「衰えて死に向かいかけた当人は、もう抗っていないのだ。限りある寿命を生き抜きた者にとって。死は抗うものですらないのかもしれない。」という一文などは我が身にもしみる言葉でした。



だからと言って、物語として決して重い話ではなく、また暗い話でもありません。それどころか、上質な人情噺として仕上げてあるところは朝井まかてという作者のうまさという以外にないのでしょう。

やはりこの作者は読みごたえがあります。
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