藤崎 彩織 ふたご




本書は、一人の少女が一人の男と出会い、彼に振り回されつつも成長し、他の仲間と共にバンドを組み更なる成長を遂げる長編小説です。

本書の主人公の西山夏子は、このSEKAI NO OWARI のピアノ担当であるSaoriこと藤崎彩織が自分自身をモデルに描いた小説です。

当然ですが、作者が現役の人気バンドメンバーだということがまず興味をひかれるところだと思います。登場人物も現実のバンドのメンバーを思い起こさせる人物が登場していることなど、作者の実体験に基づいている物語だと捉えられる書き方です。現実と本書とを混同しているレビューも散見されることも、ある程度は仕方の無いところでしょう。

本書は二部構成になっています。第一部は主人公の西山夏子と月島との二人の物語で、第二部はやはり月島と夏子を中心とした物語ではありますが、バンド中心の物語となっています。そして、全編が夏子の一人称で語られています。



友達との付き合い方が分からない夏子は中学二年生の時に一学年上の月島と出会います。夏子の居場所は俺がつくる、という月島に救いを求めていたのかもしれません。

月島が高校生になり、夏子の知らない高校生の生活の中で、月島が好きな子がいると言う言葉に振り回されたりもします。夏子にとっては月島だけが自分のことをわかってくれる相手です。他には誰もいません。



第一部はこのように二人の世界が展開します。でも、二人の間で交わされる会話は夏子が、そして月島も後に言うように、「言葉の遊び」でしかなく、こうした二人の会話に私は強烈な違和感を感じてしまいました。

もしかしたら現実にこうした会話をする人たちがいるのかもしれませんが、少なくとも私の知る限りではいませんし、もしいたとしてもそれは別世界の人種としか思えません。

主人公の恋人的な立場の月島の精神的な身勝手さは私の相容れない心情であり、こうした男に振り回される女の子もまた同様です。後に月島の病気、という事情は明らかにされますが、だからと言って印象は変わりません。


本書も第二部になると、前半の不快感はかなり和らぎます。月島を中心としてバンドを結成し、やはり月島に振り回されながらもバンド活動に熱中していく主人公の姿は、第一部ほどの違和感はなく、それなりのリアリティーを持って迫ってくるように感じられ始めたのです。

ただ、それでもなお、月島の独りよがりな言動に振り回される主人公、という構図は変わりません。少なくはなったものの、やはり二人の関係性に対する不快感は無くなったわけではないのです。


同時に、作者の感性の繊細さ、選ばれる言葉、文章の飾らない素直さに惹き込まれるものがあることが自分でも驚きでした。人物の心象表現は決して好みではないのですが、思いもかけないところから飛び出してくるような言葉の出現は、驚かされます。


ネット上のレビューを読んでみると、第一部はいいけれど、第二部は感心しないという声が多いように感じます。第一部の月島と夏子との言葉の応酬は多くの人の心に届いたようです。ただ、繰り返しますが、私の感覚とは異なりました。

前半は半分義務感で読んでいたのですが、後半は物語に惹かれて読んだ、と言えるでしょう。直木賞の候補になったことも納得の作品でした。
プロフィール

siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR